蔭山 翔

建築音響学では、「音」の付く重要な言葉として、
「音・音波・音場」を使い分ける。
「音は空気の疎密波である」
という事は、もちろん物理的には正しいが、
「音」は人間が知覚した時点で「音」になる。
それまでは「音波」なのである。

スペクトル解析を学ぶ際、初期に必ず見るであろう、
関数 f(x) のフーリエ級数の式

簡単に言えば、
「どんな形の波でも sin, cos というシンプルな波の足し合わせで表すことができる」
というものである。
この事を知った時、とても感動したのを記憶している。

逆をとれば、
sin, cos というシンプルな波の足し合わせで、どんな形の波も表せる」
という事であり、
「音」に無限の可能性を感じたからだ。

一方で、人間が知覚するという事は、
聴覚系の働きによって脳へ伝達し、「音」として知覚される。
どんな「音」なのかを、自身の持つ経験を活かして、推測する。

また、人は
「両耳間時間差」(「音」が左右の各耳に届く時間差)
により、発生音源の方向を同定するが、
スピーカーによって、音源の位置を調整。

例えば、
夜道を歩いていて、「後ろ」から「人」の声が聞こえた
とする。
ほとんどの人はその「人」を「探す」為に「振り返る」だろう。
そして、思い描いた光景と同じ様な光景を実際に観て安心する。
(探せない場合にはホラー映画のワンシーンのようである)

この「音情報のみから、光景を思い描く」という事が、
今回のアクースマティック作品の目指した所の一つである。
そうして、その思い描いた光景は、
その人の人生・想像力により、固有の作品となるだろう。

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